昨年4月、ある医療機関において、新型コロナウィルス感染症患者の電子カルテの画像が無料の通信アプリLINEを通して外部に流出したとの報道がなされました。今回は、新型コロナウイルス感染症拡大のなか、最前線で働くみなさまが思わぬ事態に巻き込まれることがないように、患者の情報の保護という観点から最近の事例について考えてみたいと思います。
情報はどのように流出したか
報道によりますと、看護師Aが電子カルテの一部を印刷した書類を携帯電話のカメラで撮影し、翌日に勤務する看護師Bに対し、注意喚起の文書とともにLINEで送信し、それを受け取った看護師Bも、同じ趣旨で、また別の看護師Cに送信し、この看護師Cもさらに別の看護師Dに送信し、情報を流出させたとのことです。なお、最初に情報を流出させた看護師は、感染症病棟の勤務で当面帰宅できなくなることを伝えるため、同居する高齢の両親の世話をする親族1人に対しても、この画像を送っています。この親族は別の親族1人にも転送したことが判明しています。
処分について
看護師Aは停職6か月、看護師BとCは減給(10分の1)6か月の懲戒処分とされました。また、看護師Dは上司への報告を怠ったとして訓告とされました。その他、不適正な指導監督により、上司の看護部長と看護師長も訓告、医療機関の長は厳重注意となっています。
近年、スマートフォンが普及し、それと同時にSNS(Twitter・LINE・Facebook等)の利用も増加しています。それに伴い、看護師をはじめとする医療者のSNSを通した情報漏えいの事例も後を絶ちません。
看護師が医療現場で扱う情報の中には、患者の個人情報やプライバシーに関する情報が多く含まれています。これらは、特に守られる必要がある情報(センシティブ情報)です。新型コロナウイルスに感染したことやその検査結果、医療機関を受診したこと等については、個人情報保護法で一段高い規制が設けられている「要配慮個人情報」(法2条3項)にあたりますので、その取扱いには特に配慮をしなければなりません。このような情報を私物の携帯電話で撮影し、LINEで送信することは決して許されることではありません。また、日ごろから、LINE等のSNSで相手を限定して送信したとしても、受け取った側が拡散するリスクがあること、すなわち「一度自分の手を離れた情報はもう二度と完全に非公開にすることはできない」と考え行動する必要があります。
そもそも看護職は「正当な理由が無く、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」という守秘義務を負っています(保健師助産師看護師法42条の2ほか)。過去には、夫に担当患者の情報を話した看護師が守秘義務違反に問われた裁判例(福岡高等裁判所平成24年7月12日判決(判例秘書掲載))があります。看護職という専門職として働く以上、たとえ家族に対しても、職務上で知った患者の情報を話すことはできません。
いま一度、みなさまの扱う情報の重要性を再認識し、患者の情報の保護に努めていただければと思います。